アホヌラの黄昏其の弐

新潟競馬場探訪記〜第1回アイビスサマーダッシュ〜

 東京、中山、大井、川崎。この4場以外に足を運んだことが無い私にとって、今回の旅行は初のローカル競馬場参戦ということになる。
 新潟競馬場。外回りコース1周2222.96m、直線658.65m。2001年新装なったこのコースの広さは東京競馬場を抜いて日本一となった。
 この競馬場の売りは広さだけではない。直線のみの1000mコースを、国内で最初に備えたのだ。コーナーが無く、力通りの結果に決まりやすい直線だけのレース。それも「日本一の芝コース」と呼ばれる高速かつクッションの適度に効いた馬場を利用してのもの。当然タイムは相当速いものになるはずだ。
 そしてこの週の新潟メインレースは「アイビスサマーダッシュ」。直線1000mコースで行われる唯一の重賞競走である。この夏一番の注目レース、と言っても過言ではない。
 今後夏の名物レースとして定着するであろう新設GV競走を見たいがために、全国各地からディープな競馬ファンが、新潟に集まって来たのだ。
 彼らの熱狂ぶりは、既に土曜日の混雑具合からも窺えた。
 午前9時開門のはずが、私が現地に到着した8時50分ごろには、もうとっくに開いているようであった。
 流石に椅子が全て埋まっていたというわけではないが、日が直接当たらない席はあらかた取られていた。おかげで私は、少なくとも午前中一杯は澄んだ新潟の空気を突きぬく直射日光に耐えていなければならなかったのだ。
 燃えていたのはファンだけではなかった。馬も、そして騎手も、いつもより明らかに多い観客を前にして発奮したとみえる。10R新潟ジャンプS、レコードが飛び出す。勝ったヒカルボシ号の田中剛騎手はウイナーズサークルで上機嫌。ファンのサインおねだりにも快く応えていた。
 他にも特別レースを制した後藤浩輝騎手、田中勝春騎手もファンの注文に応えサインを何枚も書く。私は色紙を用意しておけばよかったと悔やんだ。ローカル競馬場に行くには、色紙は必需品であるかも・・・。

 そして日曜日。開門数時間前、既に長蛇の列。指定席券は完売。その日の開門時間は8時を予定されていたが、あまりの混雑のためにさらに10分早まった。
 場内は1R発走の2時間前だというのに異様な混雑に見舞われた。人口密度でいうなれば中央場所のGU、ともすればGT競走よりも高かったかもしれない。
 そうこうしているうちに1Rのパドックに馬達が姿を現した。やがて騎乗の合図がかかる。と、8枠15番の鞍上に観客から声援が飛んだ。
「トミオさーん、ガンバッテ!」
「富男!頑張れよ!」
 すると照れたように、ジョッキー安田富男は声の主の方に笑顔を向けた。そういえば彼は引退が決まったのだった。穴男・安田富男の勇姿をターフで見る機会も残りわずかとなってしまったのだなあ・・・。終始にこやかに、彼は愛馬とともに地下馬道に消えていった。
 そしてレース。彼は勝った。人気薄の穴馬を駆り、朝っぱらから馬連2万馬券の立役者となったのだ。終始内に位置取り経済コースを周り、直線大胆に突き抜け、そのままリードを保った。
 さすがは穴男。馬券は外したが、素直に彼を賞賛する気持ちになった。配当がターフビジョンに映し出された。すると・・・。
「やった!200倍だって!」
「万歳!取ったぞ!」
 私の座っていた席の両隣から歓声が上がった。左の夫婦、そして右の関西弁の若者の集団。
 なんということだ。1Rからいとも簡単に、しかも私のすぐそばで2組も、いきなり2万馬券を取るとは!
 これは、さっきうまそうにこの席でマックのダブルチーズバーガーセットを食べていた私への嫌がらせだろうか。香ばしい匂いを漂わせたことに対する復讐か!?
 まあいい。一日は長いのだから、ここであせる必要は無い、と自分に言い聞かせて、後のレースの検討に当たった。
 しかしである。全く当たらない。午前中のレースは全滅となった。札幌の全レースも買えたため、チョコチョコ手を出したのがさらに傷口を広げる原因となった。
 まあ私の場合は馬券は競馬を楽しむためのオマケみたいなものであるから別にいいのだが。(負け惜しみのようだが本当である。)
 昼飯も食べないでパドックとレース、札幌放映のモニターを行き来しているうちに時は過ぎていった。
 9Rのダリア賞。混合・特指の2歳馬の特別競走。ここでも騎乗合図の後に声援が飛ぶ。
「地方勢!頑張れー!」  このレース、8頭立てのうち6頭がカク地、1頭がマル地である。地元、新潟競馬所属馬が5頭出走していた。ちなみに1番人気は中央馬、函館3歳S3着の8枠8番ヘルスウォール。
「小国!上山の意地を見せてやれ!」
 上山競馬所属のマルハチストライク鞍上、小国博行騎手にも声援が飛ぶ。
「山田さーん!勝ち目あるよ!」
 新潟所属のハニーオブハーン、山田信大騎手は心なしか緊張気味のようだった。
「8枠!手加減してよ!」
 これにはヘルスウォール号の厩務員さんも苦笑していた。
 レースはヘルスウォールが貫禄勝ち。2着には上山のマルハチストライクが突っ込んだ。

 メインのアイビスサマーダッシュの発走が近づくにつれて場内のボルテージは高まる。その前に札幌メイン、GU札幌記念だ。ダービー馬ジャングルポケットの走りはどうか。私の狙いはやはりジャングル、そして対抗には藤田騎手のファイトコマンダー。良馬場なら必ず好勝負するはず。
 だがジャングルポケット、まさかの敗退。私の馬券は2着3着。買った2頭の2着争いは激しかったが、その数馬身前に切ったエアエミネムがいては・・・。
 そして新潟ファンファーレ。GTでもないのに手拍子、大歓声が沸き起こる。
私の予想はメジロダーリング本命、対抗カルストンライトオ、単穴シンボリスウォード。◎―▲で決まる。だが馬券はハズレ。◎―○の一点買いしかしていなかったのだ・・・。
 結果、1着3着。
 しかも嵐に頼まれたメジロダーリングの単勝はしっかり当たっている。くそ・・・。
 小倉のメインを当てて少しは溜飲を下げたものの、トータルは大幅マイナス。ローカルでも馬券下手を露呈することになった私であった。

 まあ、楽しかったからいいか。

  
2着3着。 1着3着。 嵐君、的中おめでとう。(この馬券はハズレです)


TOP
管理人達の溜息に戻る